くまによる素粒子物理学ノート¶
相対性理論:杉山直¶
不変間隔とローレンツ変換¶
前の章とは反対のアプローチで、 不変間隔一定 の条件からローレンツ変換を求めてみる
不変間隔¶
不変間隔 :\(s_{12}\) は以下のように定義する。 距離 を、この不変間隔で定義した 時空 を ミンコフスキー時空 と呼ぶ。
不変間隔の微小量は以下のように表すことができる。
時間的、空間的¶
時間の延びと固有時間¶
ローレンツ変換¶
4元ベクトルと特殊相対論的運動論¶
ニュートン力学とベクトル、スカラー¶
3次元のベクトル量¶
3次元のベクトル量 は 座標回転に対する変換性 で定義する。
ところで、教科書 p.61 の(5.1)式は間違ってる。 正しくは、
のように、右辺は距離を時間で2階微分した形のはず。
座標回転¶
回転行列¶
アインシュタインの規約(縮約記法)¶
上付きの添字と下付きの添字が同じ記号ででてきたときは、 座標の全成分について和をとる、というルール。
この書き方のルールに従うと、上の式は短く省略した形で書くことができる。
毎回 \(\sum\) 記号を書くのはいささかめんどくさいので省略しちゃいましょう、ということ。
ダミー添字¶
アインシュタインの規約 を使って書いたときに、 最終的に左辺に現れない添字を ダミー と呼ぶ。 上の場合だと \(j\) のことである。
ダミー添字は、好きな記号に置き換えてもOKである。 例えば、
ミンコフスキー時空と4元ベクトル、スカラー¶
- ローレンツ変換を使ったベクトル・スカラーの定義
- その過程で ミンコフスキー計量 を導入
4元位置ベクトルの定義¶
3次元のベクトルに、時間成分を加えたもの。 次元を合わせるために \(x^{0} = ct\) で定義されている。
4元位置ベクトルとローレンツ変換¶
教科書 p.56 のローレンツ変換の式を4元位置ベクトルを使って表す。
これを行列で表すと、
また、最初の式をアインシュタインの規約を使って1行で表すと、
この時、ローレンツ変換を表す行列 \(L^{\mu}_{\nu}\) は次のようになっている
4元位置ベクトルの不変間隔とミンコフスキー計量¶
4元位置ベクトルの微小変分を \(\mathrm{d}x^{\mu}\) を使って 不変間隔 \(\mathrm{d}s^{2}\) を表す。
不変間隔をもっと簡潔に書くために ミンコフスキー計量 という行列を定義する。
ミンコフスキー計量の中身は次のように定義している。
上の書き方もアインシュタインの規約を使って書かれているので、きちんと書くと
の形をしていてミンコフスキー計量の成分を代入すると、最初に書いた不変間隔の表式に戻る。 (というか、そうなるように定義したので当たり前)
ローレンツ変換とミンコフスキー計量の関係式¶
不変間隔 が ローレンツ不変 であることを使って ミンコフスキー計量とローレンツ変換の関係式 を求める。
4元位置ベクトル \(x^{\mu}\) のローレンツ変換は次の形をしていた。
その微小変分 \(\mathrm{d}x^{\mu}\) も同じ形でローレンツ変換するので、
のように書くことができる。
不変間隔がローレンツ不変 ということは、次の式が常に成り立つということ、
なので、左辺と右辺をそれぞれ定義にしたがって計算し、 両辺の係数を比較することで、目的の関係式を求めることができる。
両辺の係数を比較すると、次の関係式が得られる
ローレンツ変換と4元ベクトル・スカラー¶
ここまで 4元位置ベクトルや不変間隔のローレンツ変換に対する変換性 を読んできた。
これを一般化して、以下のように呼ぶことにする。
4元(ローレンツ)ベクトル: | ローレンツ変換に対して4元位置ベクトルと同じ変換性を持つ物理量 |
---|---|
(4元ローレンツ)スカラー: | ローレンツ変換に対して不変な物理量 |
相対論の話をしているとき ローレンツ変換 は暗黙の了解的な部分があるので、 (ローレンツ) の部分は省略することが多い。 また、スカラーにはバランスを取るために (4元ローレンツ) と付けてみたが、 実際に聞いたことがなく、単にスカラーと呼ぶ。
まとめると、4元ベクトルを \(V^{\mu}\) と書くことにして、次のように表す。
これを行列の形に展開して書くと次のようになっている (教科書 p.66 の(5.22)〜(5.25)式をまとめて書いたもの)。
【例題5.2】4元ベクトルの内積(教科書 p.67)¶
課題
4元ベクトル \(V^{\mu}\) と \(W^{\mu}\) の内積がスカラーであることを示せ。
注釈
つまり、
となるかどうかを確かめる。
まず、左辺を計算するために \(V^{\mu}\) と \(W^{\mu}\) をローレンツ変換する
上の変換式を内積の定義に代入すればいいのだが \(\nu\) が ダミー添字 であることに気をつける。 具体的には次のように書きなおして、代入に使うとよい。
内積の定義は \(V^{\mu} \cdot W^{\mu} \equiv \eta_{\mu \nu} V^{\mu} W^{\nu}\) なので、
ということで、内積はスカラーであることが分かった。
最後の行の1つ前で \(\kappa \rightarrow \mu, \lambda \rightarrow \nu\) という 添字の置き換えを行っているが \(V^{\kappa} \cdot W^{\lambda}\) が表す内容は変わらないのでOKである。
どういうことかというと、アインシュタインの規約を展開して、次の計算をしているということ。
【章末問題5.1】(教科書 p.79)¶
課題
ローレンツ変換によって、2つのベクトル \(V^{\mu}, W^{\mu}\) の内積が不変に保たれることを、ローレンツ変換の成分を具体的に用いて示せ。
注釈
上の例題5.2の計算の途中に出てくる以下の式に、 ローレンツ変換の成分を具体的に代入して計算する。
ローレンツ変換 \(L^{\mu \nu}\) の行列の成分は、
第1項の計算¶
とりあえず、マイナスを取った部分を計算する。
\(\textcolor{blue}{L^{0}_{2} = 0}, \textcolor{blue}{L^{0}_{3} =0 }\) なので、 それを含む項はなくなることを考えると、 左上の4つの項だけが残る。
忘れないうちに、マイナスを付けておく、
第2項¶
同様に \(\textcolor{blue}{L^{1}_{2} = 0}, \textcolor{blue}{L^{1}_{3} = 0}\) なので、 それを含む項はなくなることを考えると、4つの項だけが残る。
第3項¶
\(\textcolor{blue}{L^{2}_{0} = 0}, \textcolor{blue}{L^{2}_{1} = 0}, \textcolor{blue}{L^{2}_{3} = 0}\) なので、 \(L^{2}_{2}\) だけの項が残る
第4項¶
第3項と同様に \(\textcolor{blue}{L^{3}_{0} = 0}, \textcolor{blue}{L^{3}_{1} = 0}, \textcolor{blue}{L^{3}_{2} = 0}\) なので、 \(L^{3}_{3}\) だけの項が残る
全部足し合わせる¶
ということで、ローレンツ変換の成分を使った具体的な計算で、 内積がローレンツ不変であることを確認できた。 (労力に見合う計算だったかはともかく)
共変ベクトルの導入¶
共変ベクトル を \(V_{\mu}\) のように 下付き添え字のベクトル で書くことにして、 これまで使ってきた 上付き添字のベクトル と ミンコフスキー計量 を使って、 次のように定義する。
これからは、添字の上下で、反変ベクトルと共変ベクトルを区別して書くことにする。
反変ベクトル: | 上付き添字 |
---|---|
共変ベクトル: | 下付き添字 |
上下の添字で区別するのは慣習なので 習うより慣れろ としか言えない。 反変/共変 には物理学的・数学的な意味がもちろんあるのだけど、 現段階では「そいういう区別があるのかぁ」という認識で特に問題ない。
反変ベクトルと共変ベクトルの関係¶
共変ベクトルの定義を行列で表してみる
よって、共変ベクトルは反変ベクトルの時間成分をマイナスにしたもの。
また、前の段落では ミンコフスキー計量の行列 を使って 反変ベクトルを共変ベクトルに変換 したが、 ミンコフスキー計量の逆行列 を使って 共変ベクトルを反変ベクトルに変換 することもできる。
上付きの \(\eta^{\mu \nu}\) は、下付きの \(\eta_{\mu \nu}\) の 逆行列を表していて、以下の関係がある(=逆行列の定義)
これの成分を計算すると、実は逆行列は、元の行列と同じ形になっている。
共変ベクトルを使った内積の定義¶
共変ベクトルを使うと、内積の定義をより簡潔に書くことができる
なので、これからは内積を \(V^{\mu} W_{\mu}\) で表すことにする。
ちなみに \(V^{\mu} W_{\mu} = V_{\mu} W^{\mu}\) なので、 反変ベクトル、共変ベクトルをどの順番で書いても問題ないが、 内積は反変ベクトルと共変ベクトルの組である ことは覚えておく。
共変ベクトルのローレンツ変換に対する変換性¶
ここまでで、反変ベクトルの変換性は習ったので、 それを元に共変ベクトルの変換性を確認してみる。
反変ベクトルの変換性
共変ベクトルの定義に、上の変換式を代入する
ここで \(V^{\lambda}\) を共変ベクトルに変換する
この係数部分 \(\eta_{\mu \nu} L^{\nu}_{\lambda} \eta^{\lambda \kappa}\) が、 共変ベクトルのローレンツ変換に対する変換性を表す行列である。 実はこの部分は、ローレンツ変換 \(L^{\mu}_{\nu}\) の逆行列になっているので、 上にバーを付けて \(\overline{L^{\mu}_{\nu}}\) で表すことにする。
上の式の右辺に2回ずつでてくる \(\nu, \lambda\) はダミー添字なので、左辺では消えている。
また、ここで注目すべきは 元の ローレンツ変換の行列を2つのミンコフスキー計量で挟むと逆行列が得られる こと。
ローレンツ変換の逆変換¶
共変ベクトルの変換性は、ローレンツ変換の逆行列で定義できることが分かった。 では ローレンツ変換の逆行列(=逆変換) とはどいうことなのか。
ローレンツ変換の逆変換は ブーストの方向(慣性系が動く方向)を反対向きにすることに相当する。
(これまで考えていた)ローレンツ変換: | |
---|---|
x方向に速度vでブースト | |
その逆変換: | x方向に速度-vでブースト |
章末問題5.2(教科書 p.79)¶
課題
(1): | ローレンツ変換を表す行列は \((L^{\mu}_{\nu})\) である。これを用いて、ローレンツ変換の逆変換を与える行列を表わせ。 |
---|---|
(2): | ローレンツ変換が \(x^{1}\) 方向のブーストで与えられるとき、逆変換を具体的に行列で書き表わせ。 |
反変ベクトルと共変ベクトルのまとめ¶
ローレンツ変換 \(L^{\mu}_{\nu}\) に対する 反変ベクトル、共変ベクトルはそれぞれ以下のように定義する
反変ベクトルと共変ベクトルは計量でお互いに変換できる
ローレンツ変換 \(L^{\mu}_{\nu}\) と ローレンツ逆変換 :math:`overline{L^{mu}_{nu}}`は、 計量を使って変換できる。
【例5.2】共変ベクトルの例(教科書 p.68)¶
反変ベクトルで微分した微分記号 は 共変ベクトル である。 ということを、計算して確かめておく。
ある関数 \(u\) を \(x'^{\mu}\) で微分する。
微分のルールを使うと以下のようになる。
右辺の係数部分が変換性を表す行列である。 これが \(L^{\mu}_{\nu}\) なのか \(\overline{L^{\mu}_{\nu}}\) なのかを確かめればよい。
共変ベクトルの変換性とその微小変分の変換性を考える
割り算(のようなこと)をして、
ということで、係数は \(\overline{L^{\mu}_{\nu}}\) 、 つまり 共変ベクトルの変換性と同じ なことが分かった。
注釈
数学の先達に聞いたら 微分記号は共変 だが、 微分して得られた量は元と同じ変換性 らしい。 つまり、この場合、関数 u がスカラーなら \(\partial u / \partial x'^{\mu}\) はスカラーになるということ。
テンソルとスカラー/ベクトル¶
テンソル はベクトルやスカラーを一般化した概念。 添字の数を テンソルのランク(階) と呼ぶ。
スカラー: | ランク0のテンソル |
---|---|
共変ベクトル: | ランク1の共変テンソル |
反変ベクトル: | ランク1の反変テンソル |
特殊相対性理論とローレンツ共変¶
特殊相対論では、運動方程式を ローレンツ変換に対して同じランクのテンソル で書かないといけない。 これを ローレンツ共変 と呼ぶ。
つまり、ローレンツ共変であれば、 ローレンツ変換をしても、方程式が同じ形になる。 つまりつまり、 ローレンツ共変=特殊相対性原理
【例5.3】4元速度(教科書 p.70)¶
4次元座標の他の4元ベクトルを考えてよう、ということで 3次元の速度を拡張して4元速度を定義する。
まず、3次元の速度は、距離を時間で割ればいいので、以下のようになる。
これを、単純に4次元に拡張、つまり第0成分も含めて書く。 つまり、 \(i \rightarrow \mu\) にする。
ただし、ローレンツ変換によって分母の \(\mathrm{d}t\) (=言ってみれば \(t\) の関数なので)も変換されてしまうため、 うまくいかない(共変性がなくなる)。 計算結果は 第4.4節 【例4.3】 (教科書 p.58)になる。
そこで ローレンツ不変な時間:固有時間 \(\tau\) を導入する。
テンソル解析¶
一般座標変換¶
一般座標変換とローレンツ変換¶
一般座標変換を数式で表すと以下のようになる。
これまで通り \(x^{\mu} = (x^{0}, x^{1}, x^{2}, x^{3})\) の4成分を表していて、一般座標変換した後の座標も同じように \(\tilde{x}^{\mu} = (\tilde{x}^{0}, \tilde{x}^{1}, \tilde{x}^{2}, \tilde{x}^{3})\) の4成分ある。 変換後の座標の成分は、元の座標の関数になっているところが、ローレンツ変換と大きく違う。
分かりやすくなるかと思って各成分を書いてみたが、思いの外見づらくなってしまった。 真ん中の項では「 \((x^{0}, x^{1}, x^{2}, x^{3})\) の関数(function)ですよ」ということを明示していて、1番右側の項で「これからは \(f^{\mu}\) を \(\tilde{x}^{\mu}\) と書くことにします」という気持ち。
ここで、ローレンツ変換は以下の形をしていたが、
同じように各成分を書いてみると、以下のように書ける。
まぁ、ローレンツ変換の場合、各成分の形は決まっているので、こういう風に抽象化して書くよりも、具体的に書いた方が分かりやすいと思う。
ただ、遠目に眺めると、両者の形が似ているのが分かる。 「 \('\) (ダッシュ/プライム)」が「 \(\tilde{ }\) (チルダ)」になって、「 \(L\) 」が「 \(\tilde{x}\) 」になってるだけ。 なので、以降もローレンツ変換でやったことを思い出しながら読み進めればよい。
ローレンツ変換との違いは、一般座標変換の各成分が元の時空の関数になっている点なので、次にやる微小変分を求める際の微分で注意が必要。
微小変分¶
一般座標変換した時の微小変分がどうなるかを求める。 前節で比較したことと踏まえて、ローレンツ変換の時と同じように、以下のように記述できたらいいのだが、
ここで、\(\tilde{x}\) が \((x^{0}, x^{1}, x^{2}, x^{3})\) の関数であることが効いてくる。 つまり、上の計算はダメ。
それをに気をつけると 全微分のルール に沿って微分を計算することになる。 ちなみに、数式中の 微分(differential)のd はローマン体で書くことが多い(決まりなのかな?LaTeXだとすごくめんどくさい・・・)。
全微分のルールにしたがって書き下すと次のようになる。
これを アインシュタインの規約 を使って書くと、次のようになる。
これも、微小変化分に対するローレンツ変換と形は似ている。
微分演算子¶
ついでに、微分演算子の変換も書いておく。
スカラー・ベクトル・テンソル¶
教科書 p.118 の1段落目に以下のように書いてある
すべての物理量が、一般座標変換に対して同じ変換性をもっているわけではない。実際には、物理量ごとに, スカラー量やベクトル量などに分類 することができる。各々、 スカラーやベクトルという一般座標変換に対する変換性 を持っている量である。
3次元空間の場合は 座標回転 、特殊相対論の場合は ローレンツ変換 に対する 変換性 でスカラー・ベクトルを定義したように、一般相対論の場合は 一般座標変換 に対する変換性で定義する。
テンソルはまだ良くわからないが、ぱっと思いつく物理量をベクトルとスカラーに分類してみた。
ベクトル | 位置、速度、力、運動量、など |
スカラー | 距離、エネルギー、質量、など |
もしかしたら、間違っているかもしれない
【例9.2】曲線の接ベクトル(教科書 p.118)¶
\(x^{\mu}(u)\) は曲線を表す。 \(u\) は適当なパラメータ(=変数)。 なんでもよいのだが、時間だと思うと曲線(=軌跡)を描くイメージがしやすい。
ちょうど \(y = f(x)\) の関数が描く曲線の、 \(f \rightarrow x^{\mu}, x \rightarrow u\) と記号を変えただけ。
この曲線の接線方向のベクトルを 接ベクトル と呼び、 その名前の通り (反変)ベクトル である。
(共変)微分¶
節タイトルを勝手に補ってみた。 この節は通常の微分が適用できない ベクトル場の微分 をするため、 共変微分 という新しい微分を定義する話
微分記号の表し方¶
第5.2節 のローレンツ変換のところ(教科書 p.68)で、スカラー場の微分は共変ベクトルであることを示した。 その微分記号を以下のように簡略化して書くことにする。
簡略化した微分記号の添字の位置に注目すると、微分記号は共変ベクトル(=下付き添字)であることが分かるようになってる。 ただし、微分をするときには反変ベクトル(=上付き添字)ですることは覚えておく。
ベクトル場¶
ベクトル場 とは、天気図で例えると、各地点での風向きを表した図のことである。
ちなみに スカラー場 は、各地点での気温とか気圧とかを表した図である。 各地点のスカラー値を結ぶと等高線が引ける(気圧配置とか、登山に使う地図とか)
今度は ベクトル場 \(V^{\mu}(x)\) の微分を計算する。 上で定義した簡略記号を早速使ってみると、以下のように書くことができる。
一般座標変換した後の \(\tilde{\partial_{\nu}} \tilde{V^{\mu}}\) の変換性を調べてみる。 必要な要素の一般座標変換を先に計算しておく。
微分演算子の簡略を積極的に使ったので、教科書(p.120)の計算式と少し形が違うが、やってることは同じ。
- 1行目に、上で計算しておいた要素を代入
- 1行目から2行目では、積の微分をしている
- 2行目から3行目で、第1項の微分記号を展開
- 3行目から4行目で、第1項の微分係数をまとめた後、第1項と第2項を入れ替え
教科書(p.121)の2行目あたりに「余分なおつり」と書いてあるように、第2項が存在するため ベクトル場の微分はテンソルにならない
新しい微分の方法:共変微分¶
ベクトル場の微分はテンソルにならないが、やっぱりテンソルになってくれた方が嬉しい(物理法則の共変性)。 ということで、ベクトル場の微分がテンソルになるように新しい微分方法を編み出した。 それが 共変微分 と呼ばれるもの。
まず、共変微分の定義を書いておく。
接続の一般座標変換に対する変換性¶
第2項におつりがあるので、テンソルではない。
もともと テンソルではなかったベクトル場の微分 を 共変微分を使って(むりやり)テンソルにした 。 そのしわ寄せが 接続 に押し込まれている、と考えたらそりゃそうか。
本当にこの形になるのかは章末問題9.1をやれば分かる。 教科書p.196に回答が載ってる。
共変微分のまとめ¶
スカラーの共変微分¶
反変ベクトルと共変ベクトルの共変微分¶
ランク2のテンソルの共変微分¶
ランク3のテンソルの共変微分¶
共変微分のライプニッツ則¶
ライプニッツ則 とは 積の微分の規則 のこと。 積の共変微分も、高校数学でならった通りの規則でできますよ、ということ。
共変微分という新しい微分法を考えたのに、従来の規則をそのまま適用できなんてよく出来てる。
曲率¶
空間の曲がり方は、ベクトルを別の経路で平行移動させたときの 差 として定量化できる。 その差を リーマン曲率テンソル と呼ぶ。
空間が平坦な場合、リーマン曲率テンソル=0になる。 (正の場合は山に、負の場合は谷になってるのかな?)
リーマン曲率テンソル¶
リーマン曲率テンソルは 空間(時空)の曲がり具合を表す指標 となる値である。 これはベクトルを平行移動させたときに、空間が曲がっていると移動の順番によって差が生じるよ、ということ。 どうしてこで生じるかのイメージは 杉山本 p.123 図9.2 を見ながら考えるとよい。 空間が平坦であれば、差は生じないので、リーマン曲率テンソルは常に0である。
ランク4のテンソルで、上付き添字が1つ、下付き添字が3つである。 3階共変・1階反変テンソル、というらしい。 クリストッフェル記号 を使って以下のように表すことができる。
4階のテンソル。 添字の位置を見ると、1階の反変成分と3階の共変成分を持っている。
\(\mu, \nu, \lambda, \kappa\) = 0〜3(=4成分)なので、 単純に考えると、リーマン曲率テンソルの成分は \(4 \times 4 \times 4 \times 4 = 246\) 個ある。 ただし、以下の対称性とかを考慮することで 独立な成分は20個 まで減少する。 (対称性については 第9.5節 を参照)
平行移動の経路1( \(x + \mathrm{d}x + \delta x\) )¶
まず、 \(x \rightarrow x + \mathrm{d}x\) への平行移動
次に \(x + \mathrm{d}x \rightarrow x + \mathrm{d}x + \delta x\) への平行移動。 上の式を見ながら、以下の置換えを考えればよい
と思ったんだけど、教科書(p.124)の式(9.23)を見ると、右辺の \(V\) が \(\overline{V}\) なってるのはなんでだっけ?
テイラー展開¶
YouTubeにて解説動画を発見(https://www.youtube.com/watch?v=3AbiJ8cMVtU)
ある関数を べき級数 で近似する方法。 つまり、(1乗の項)+(2乗の項)+(3乗の項)+・・・、という風に足し算で近似していく方法。 a=0の時を、特別に マクローリン展開 と呼ぶ。
\(\Gamma^{\mu}_{\nu \lambda}(x + \mathrm{d}x)\) をテイラー展開する場合、 \(a = \mathrm{d}x\) と置いて、上のテイラー展開の式に当てはめる。
平行移動の経路2( \(x + \mathrm{d}x + \delta x\) )¶
メトリック (計量)¶
メトリック (計量) は 距離を決める基本要素 のこと。 つまり 距離や長さを定義するのに必要なテンソル ってこと。
数学的に書くと 2点間の距離 や ベクトルの長さ を定義するために導入する ランク2 の 対称共変テンソル 。
\(g_{\mu \nu}(x)\) と表記する。 \((x)\) と付けてあるのは、計量が時空(の点)の関数であることを意味していて、つまり場所場所で異なった値になってるということ。 つまり、平坦ではなく、ぐにゃぐにゃしている面を想像すればよい。
計算の際は、毎回書くと煩雑なので省略して書かれることが多く、気がついた時に思い出す程度で良い。
ランク2の対称共変テンソル¶
この言葉から分かること:
- ランク2 なので、添字は \(\mu, \nu\) の2つ
- 共変 なので添字は下につける。
- 対称テンソル なので \(g_{\mu \nu} = g_{\nu \mu}\)
- \(\mu=0-3, \nu=0-3\) なので、成分の数としては4×4=16個だが、対称テンソルなので、変数 (パラメータ) としては10個
メトリックと不変距離¶
\(x^{\mu}\) と \(x^{\mu} + \mathrm{d}x^{\mu}\) の距離 \(\mathrm{d}s\)
反変ベクトルの長さ¶
反変ベクトル \(V^{\mu}\) の長さ \(V\)
反変ベクトルの内積¶
2つの反変ベクトル \(V^{\mu}, W^{\nu}\) の内積 \(V \cdot W\) (教科書に特に記号がないので、ベクトルの内積の書き方で書いておく)。 内積の値が0であれば、2つのベクトルは直交している。
反変ベクトルと共変ベクトルへの変換¶
添字を、上付きから下付きに変換する
添字を、下付きから上付きに変換する
計量 (=共変テンソル) とその反変テンソルの関係¶
計量 \(g_{\mu \nu}\) は 共変テンソル (下付き) だった。 その 反変テンソル (上付き) \(g^{\mu \nu}\) とは、逆行列みたいな関係がある
メトリックと接続の関係式(クリストッフェル記号)¶
平行移動してもベクトルの長さは変わらないことから、メトリックを使って接続を表すことができる。 上に書いたように、ベクトルの長さにはメトリックが関係していて、前節で書いたように接続には平行移動が関係しているため。
結論を先に書いておくと、
上記のようにメトリックから導かれる接続のことを クリストッフェル記号 と呼ぶ。具体的なメトリックが分かれば、接続はメトリックの1階微分から求めることができる。
上の関係式の計算¶
ちょっと長くなるけれど、頑張ればできるはず。
前節で、ベクトル場の平行移動は \(\overline{V}\) で書くことにしたことを思い出しながら、平行移動の前後でベクトルの長さが変わらないことを数式で表す。
\(x^{\mu} \rightarrow x^{\mu} + \mathrm{d}x^{\mu}\) への平行移動であることが分かるように書いておく。
以下の関係式を使って、右辺を計算する。 4番目は、教科書に明記されてないけれど、使ってるはず。
- \(g_{\mu \nu}(x + \mathrm{d}x) = g_{\mu \nu}(x) + \partial_{\lambda} g_{\mu \nu}(x) \mathrm{d}x^{\lambda}\)
- \(\overline{V}^{\mu} (x+\mathrm{d}x) = V^{\mu}(x) - \Gamma^{\mu}_{\kappa \lambda} V^{\kappa}(x) \mathrm{d}x^{\lambda}\)
- \(\overline{V}^{\nu} (x+\mathrm{d}x) = V^{\nu}(x) - \Gamma^{\nu}_{\kappa \lambda} V^{\kappa}(x) \mathrm{d}x^{\lambda}\)
- \((\mathrm{d}x^{\lambda})^{2}\) 以上は、微小量なので無視する
まず、2と3の掛け算から計算する。 \((x)\) は省略してる。
次の計算をするために括弧の中を適当に (イ) と置き換えた。
1との掛け算をする。 ここも \((x)\) は省略した。
さて、ここで最初の ベクトルの長さは平行移動しても変わらない という条件に戻って、左辺=右辺、の形を整理していく。 すると、条件式の新しい形を得ることができる。
(イ) を代入して、 \(V^{\mu} V^{\nu} \mathrm{d}x^{\lambda}\) の形になるように整理する。
ここで、第1項では \(\kappa \leftrightarrow \nu\) の入れ替え、第2項では \(\kappa \leftrightarrow \mu\) の入れ替え、を行う。
こうして、やっと教科書p.125の式(9.29)が得られた。 ちなみに、ここまでで、目的の3分の2くらい。 あともう少し。
接続 \(\Gamma\) をメトリック \(g_{\mu \nu}\) を使って表したいので、上で求めた式を以下のように工夫して組み合わせる。
(この式) + (\(\nu \leftrightarrow \lambda\) した式) - (\(\mu \leftrightarrow \lambda\) した式) の計算をする。
各式の第1項はそのまま計算するしかない。 第2項と第3項は、同じ添字のメトリックで括るようにする。 (メトリックは対称テンソルなので \(g_{\kappa \lambda} = g_{\lambda \kappa}\) )
このとき、接続 \(\Gamma\) も \(\nu \leftrightarrow \lambda\) に対して対称( \(\Gamma^{\mu}_{\nu \lambda} = \Gamma^{\mu}_{\lambda \nu}\) )であることを利用する。
いよいよ、最後、 \(\Gamma =\) の形に整理する。
左辺のメトリック \(g_{\mu \kappa}\) を消去するには、その逆テンソル \(g^{\mu \kappa}\) を、両辺の左から掛ける(行列の割り算みたいなもの)。
最後は、教科書に合わせるために \(\mu \leftrightarrow \kappa\) を入れ替えている。
これで、教科書p.126の式(9.33)が計算できた。
メトリックとリーマン曲率テンソル¶
リーマン曲率テンソルの定義式(教科書p.124 式(9.26)参照)を思い出してみる。
クリストッフェル記号の1階微分が含まれているので、 メトリックの2階微分が出てくることが分かる。
つまり
メトリック→(微分)→接続(クリストッフェル記号)→(微分)→リーマン曲率テンソル
リーマン曲率テンソルの式からの対称性¶
\(\kappa \leftrightarrow \lambda\) を入れ替えた成分は 符号が反対 になってる。
クリストッフェル記号の対称性からくる対称性¶
ぱっと見ると違いが分からないが、上の添字 \(\mu\) はそのままで、 下の添字の \(\nu, \lambda, \kappa\) が順番に入れ替わっている (たしか、これを巡回置換と言ったような)。 これらを足し合わせると0なる。
4階共変テンソル¶
反変成分(上付き添字1個)を、計量テンソルをつかって下に降ろして、4階共変テンソルを計算してみる。
上の式から、以下のような関係式が得られるらしい。
上の3つの式に関しては、下添字の移動に注目して眺める。 左辺の添字の中身を何回移動させれば、右辺の添字と同じ順番になるかを考える。 移動回数が偶数回であればプラス、奇数回であればマイナスになる。
計算はめんどくさそうなので、後回しにする(もしくはやらない)けど、 関係式として大事なのはそこ。
リッチ・テンソル¶
リッチ・テンソルはランク2のリーマン曲率テンソル。 (なので、リッチ・テンソルの \(R\) は リーマン(Riemann)の \(R\) だと思われる)
上の式は、たぶん、右から読むと、きちんと読める。
まず、リーマン曲率テンソル \(R_{\eta \mu \kappa \nu}\) の 縮約をとる という計算式が、 右辺のように計量テンソル \(g^{\kappa \eta}\) を掛けるという形になっている。 なぜ、この形になのかは、いま読んだところでは理解できてないので置いておく。 とりあえずこうなる!
計量テンソルは 添字の文字を置き換えて、更に上下を入れ替える 性質を持っているので、 \(R_{\eta \mu \kappa \nu}\) に付いている \(\eta\) が \(\kappa\) に置き換わったのち ( \(R_{\eta \mu \kappa \nu} \rightarrow R_{\kappa \mu \kappa \nu}\))、 その \(\kappa\) が上に移動してる( \(R_{\kappa \mu \kappa \nu} \rightarrow R^{\kappa}_{\mu \kappa \nu}\) )。 このとき、計量 \(g^{\kappa \eta}\) は役目を終えたので消えている。
さらに \(R^{\kappa}_{\mu \kappa \nu}\) の添字をみると \(\kappa\) が上下に存在するので、 (これを毎回書くのがめんどくさいから) \(R_{\mu \nu}\) と定義して リッチ・テンソル と呼ぶことにしまーす、と言っている。
測地線方程式¶
測地線 は 2点を結ぶ最短距離となる経路 のこと。
測地線方程式 は、重力場が存在する場合に、質点や光が重力の影響を受けてどのような経路を取るのかを表す方程式。 与えられた重力場中の テスト粒子の運動 を記述する方程式なので、重力場の理論にしなきゃいけない。
アインシュタイン方程式¶
アインシュタイン方程式¶
一般相対性理論の基礎方程式
- \(R^{\mu \nu}\) : リッチ テンソル
- \(g^{\mu \nu}\) : 計量 テンソル
- \(T^{\mu \nu}\) : エネルギー・運動量 テンソル
一般相対性原理¶
一般相対性原理 を数学の言葉で言うと 一般共変性 になる。
一般相対性原理: | すべての物理法則は どのような座標系 を基準にとっても 同じ形 で表される |
---|---|
一般共変性: | すべての物理法則は 任意の座標変換 に対して 共変な形式 で書き表される |
この一般共変性は テンソル解析の言葉 で表現される。 なので、アインシュタイン方程式はテンソルを使って表されているし、 方程式を読み解くにはテンソル解析の知識が必要になってくる。
球対称時空¶
アインシュタイン方程式を解く¶
方針¶
- 物質の分布を指定(仮定)する \(\Rightarrow \quad T^{\mu \nu}\) を指定すること
- \(g^{\mu \nu} (x)\) について書き下す \(\Rightarrow\) 連立微分方程式をGetできる
- \(g^{\mu \nu} (x)\) が求まる \(\Rightarrow\) 時空の構造が分かる
難しい点¶
2番目で得られるのは、10個の非線形な連立偏微分方程式。 聞いただけで解くのが大変そう・・・。
解くポイント¶
真っ向から立ち向かうのはなかなか難しいので、状況に応じてモデル化・理想化する。 具体的には、様々な 対称性 を課すことで方程式を簡単な形にする。
解の例¶
フリードマン解: | 一様等方性 |
---|---|
シュバルツシルト解: | 球対称性 |
成相解: | |
冨松・佐藤解: |
シュヴァルツシルト解¶
1915年に、カール・シュヴァルツシルトが求めた解。 歴史上、最初に求められたアインシュタイン方程式の厳密解。
静止しているブラックホールを表している。
シュバルツシルト解の条件¶
- 静止している質量Mの物体
- 球対称な時空
- 静的なメトリック
極座標¶
球対称な時空を表すのに便利な座標の取り方。 その微小要素は、直交座標と少し異なっているので、計算するときには気をつける。
4次元時空の極座標は、以下のようにおけばよい
微小要素も計算しておく。 ちなみに三角関数の微分は以下のよう。
まず、\(\mathrm{d}x\) から。
次に、\(\mathrm{d}y\) 。
最後に、\(\mathrm{d}z\) 。
極座標の不変間隔¶
重力場がない場合、直交座標での不変間隔とメトリックはそれぞれ以下のようだった。
それが、極座標表示の場合、以下のようになる。
重力場がある場合、最も単純な変更はメトリックの成分のうち、定数であるものをrの関数とすること。 静的であり、球対称ということからrのみの関数になる。
素粒子物理学・原子物理学¶
19世紀のはじめにジョン・ドルトン(John Dalton)が、 「全ての元素は 原子 と呼ばれる 最小で分割不可能な粒子 から出来ている」とする 原子仮説 を発表した。 それから100年ほどたった、1897年にジョゼフ・ジョン・トムソン(Joseph John Thomson)が電子の発見を発表し、ドルトンの仮説のように 何やら最小の構成粒子 があることが分かってきた。(残念ながら(?)、原子は最小の構成粒子ではなかった)
素粒子 は 物質を構成する最小の構成粒子 の総称である。 現在の研究では全部で17種類あることが分かっている。 素粒子物理学は、これら素粒子の 性質 や素粒子間にはたらく 力の法則 などを研究する学問である。
素粒子物理学の研究を行うためには、エネルギーの高い状態について研究することが必要になるため 高エネルギー物理学 と呼ばれたりする。